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弁護士が答える内定取消Q&A

弁護士が答える内定取消Q&A~目次

第1 内定取消について

第2 内定取消の基準や具体例

第3 内定取消と損害賠償

第4 内定取消に関する紛争の具体例

第5 中途採用者やヘッドハンティングの内定取消


第1 内定取消について

内定取消 内定とは?

○ 労働者の応募に対する会社の承諾を一般に内定といいます。内定は、就労の始期を定めた労働契約の成立と考えられています。

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内定取消 弁護士さん、内定取消は許されるの?

はい。

○ 内定取消自体、認められないわけではありません。

○ もっとも、内定取消がいつでも認められるわけではありません。

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内定取消 内定取消をできる根拠は?

○ 判例は、内定について、「就労又は労働契約の効力の発生始期付きで解約権留保付き」の契約としております(大日本印刷事件:最判昭和54年7月20日、電電公社近畿電通局事件:最判昭和55年5月30日)。

○ 例えば、会社から採用内定通知がA学生に届いた時点で会社とA学生との間に試用労働契約が成立し、3月31日時点で大学や高校を卒業できなかった場合に「解約できることを条件としている」労働契約が成立したものと考えるのです。

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第2 内定取消の基準や具体例

内定取消 弁護士さん、どういう場合に内定取消が認められるの?

○ 内定取消が認められるためには、①内定取消をすることが客観的に合理的と認められ、②社会通念上相当として是認できる事由が必要となります。

○ 判例では、

(1)企業が取消事由を採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実があって、

(2)これを理由として内定を取り消すことが解除権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られると限定しています。

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内定取消 弁護士さん、内定取消が認められる具体例を教えて?

○ 内定取消が認められる具体例としては、

  • 職務遂行能力や勤務態度などにおいて、採用内定時には知りえなかった、その会社における労働者としての適格性が欠如すると思われる事実が判明した場合
  • 病気、怪我などにより正常な勤務ができなくなった場合
  • 本人が内定時に申告していた経歴・学歴の重要部分につき虚偽があったことが判明した場合
  • 学生時代に暴力的な刑事事件で逮捕されていた場合
  • 会社の経営状態の著しい悪化

などが考えられます。

○ もっとも、内定から就労開始までのほんの数ヶ月で予見不可能なほどに経営が悪化することは通常考えられず、企業側の経営悪化を理由とする内定取消は、よほどのトラブルや経済事情の変化がないと難しいといえます。

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第3 内定取消と損害賠償

内定取消 一方的に内定を取消された。弁護士さん、どのような争い方があるの?

○ 一方的な内定取消をされた場合の争い方としては、

(1)従業員としての地位確認、
(2)4月1日以降の賃金支払請求
(3)損害賠償として慰謝料請求

○ もっとも、実務では、経営難の企業により内定を取り消された学生が地位確認の裁判を起こして入社することはあまりなく、和解金を支払うという形で解決していることが多いです。

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内定取消 弁護士さん、内定取消による慰謝料はどれくらいなの?

○ 事案によっても異なるので一概にはいえませんが、大日本印刷事件(最判昭和54年7月20日)では、100万円の慰謝料が認められています。

○ 内定取消がやむを得ないとされる場合でも、内定からその取消に至る過程において企業側が信義則上必要とされる説明を怠ったことを理由に損害賠償責任が課せられたパソナ事件(大阪地裁平成16年6月9日)では、労働者が被った精神的苦痛に対する慰謝料として20万円が認められています。

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第4 内定取消に関する紛争の具体例

内定取消 入社前研修に参加しなかった。弁護士さん、これを理由に会社は内定取消できるの?

いいえ。

○ 入社前研修に参加しなかったことを理由として、会社は内定の取消をすることは出来ません。

○ 宣伝会議事件(東京地平成17年1月28日判決)は、大学院生が入社前の研修に研究を理由に参加しなかったところ、研修が遅れているとして、試用期間を延長するか、中途採用試験の再受験かの選択を求められ、いずれも拒否したことから内定を取消されたという事案です。
裁判所は、まず、入社前の研修について、あくまで当該研修は、内定者の任意によって実施されるものであると判断しました。
その上で、使用者は、内定者の生活の本拠が、学生生活等労働関係以外の場所に存している以上、これを尊重し、研修等によって学業等を阻害してはならないとし、研修等に同意しなかった内定者に対して不利益な取り扱いをしてはならず、また、研修に参加することに同意した内定者についても、学業への支障といった合理的な理由により、参加を取りやめる旨申し出たときは、これを免除すべき信義則上の義務を使用者が負っているとし、研修の不参加を内定取消しの理由とすることはできないとしました。

○ 現役学生の生活本拠はあくまでも学業であり、使用者はこれを尊重した上で学業等を阻害しないように配慮するのは当然のことであり、裁判所の結論は妥当といえるでしょう。

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内定取消 採用前の研修会で、面接の時にはみせなかった粗暴な態度をとるようになった場合、内定を取り消すことができるの?

いいえ。

○ 粗暴な態度の程度が問題となります。多少言葉遣いが悪い程度では、内定取消は認められません。

○ もっとも、それが暴力的な様相を帯びていれば内定取消ができる可能性が高くなると言えます。

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内定取消 会社の業績が悪くなり人員削減の必要性が生じた。弁護士さん、この場合、内定取消できるの?

できる場合もあります。

○ 判例では、(1)企業が取消事由を採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実があって、(2)これを理由として内定を取り消すことが解除権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られると限定しています。

○ 内定時には予測できなかった経済情勢の悪化により、正社員ですら雇用調整の対償となっている状況であることを前提とすれば、内定を取り消す合理的な理由があると認められることもあるでしょう。

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第5 中途採用者やヘッドハンティングの内定取消

内定取消 私は、中途採用で内定取消された。弁護士さん、新規採用と中途採用で違いはあるの?

はい

○ 中途採用の場合には、従前勤めていた会社を退職していること等も鑑みながら「解約権留保の趣旨、目的に客観的に照らして合理的で社会的に相当として是認できるもの」といえるのか否かを吟味することになります。

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内定取消 中途採用で内定取消された。弁護士さん、中途採用の内定取消が違法になった判例はあるの?

はい。

○ 中途採用における内定取消が違法として慰謝料を認めた裁判例としては、オプトエレクトロニクス事件があります(東京地判平成16年6月23日)。

○ オプトエレクトロニクス事件では、採用内定をいったん留保し、調査、再面接後、再度、本件採用内定をした経緯に照らすと、本件採用内定取消しが適法になるためには、原告の能力等に問題があることについて、採用内定後新たな事実が見つかったこと等の事由が存在する必要があるとされ、本件採用内定取消には客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認できる事由を認めるに足りる証拠が存在しないとし、採用内定取消は無効であり、基本給の支払義務を認めるとともに、現実の業務に従事した従業員に業務追行したことの対価として支払われると会社が主張する業務手当(本件原告は現実の業務には従事していない)を含めた給与約208万円及び慰謝料100万円を支払えとの判示がなされています。

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内定取消 ヘッドハンティングで内定取消された。弁護士さん、ヘッドハンティングの内定取消が違法になった判例はあるの?

はい。

○ ヘッドハンティングにおける内定取消が違法として慰謝料を認めた裁判例としては、インフォミックス事件(東京地判平成9年10月31日)。

○ ヘッドハンティングによりマネージャー職にスカウトされた内定者が、採用内定期間において、以前勤めていた会社に退職届を提出したところ、会社からの経営悪化等を理由とした職種変更等の申入れに対して、職種を変更するならば試用期間を放棄するよう申し入れたこと等をもって、採用内定を取り消すことは、解約留保権の趣旨、目的に照らしても、客観的に合理的なものとはいえず、社会通念上相当と是認することはできないとされた事件です。

○ インフォミックス事件では、「採用内定者は、現実には就労していないものの、当該労働契約に拘束され、他に就職することができない地位に置かれているのであるから、企業が経営の悪化等を理由に留保解約権の行使(採用内定取消)をする場合には、いわゆる整理解雇の有効性の判断に関する(1)人員削減の必要性、(2)人員削減の手段として整理解雇することの必要性、(3)被解雇者選定の合理性、(4)手続の妥当性という4要素を総合考慮のうえ、解約留保権の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当と是認することができるかどうかを判断すべきである。」と判示しました。

○ その上で、採用内定に至る経緯や採用内定者が抱いていた期待、入社の辞退勧告などがなされた時期が入社日のわずか2週間前であって、しかも採用内定者は既に会社に対して退職届を提出して、もはや後戻りできない状況にあったこと、採用内定者が同月24日、Bに対し、内容証明郵便を出すなどの言動を行ったのは、本件採用内定の取消を含めた自らの法的地位を守るためのものであると推認することができるから、会社の職種変更命令に対する採用内定者の一連の言動、申し入れを捉えて本件内定取消をすることは、採用内定者に著しく過酷な結果を強いるものであり、解約留保権の趣旨、目的に照らしても、客観的に合理的なものとはいえず、社会通念上相当と是認することはできないというべきであると判断しました。

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